【社会】「東大が中国人の学校になっていますよ」この10年で3倍に急増、なぜ中国人は東大を目指すのか
【社会】「東大が中国人の学校になっていますよ」この10年で3倍に急増、なぜ中国人は東大を目指すのか
配信元:令和の社会・ニュース発信所
日本の最高学府・東大が“中国化”している。今や在学生の12%超が中国人に。なぜ、このような事態に至ったのか。取材を進めると、見えて来たのは中国の景気低迷や過熱する受験戦争、そして共産党体制への不満だった。
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在留資格を持つ中国人はコロナ以前の2019年を超えて過去最高
日系企業に勤める邦人がスパイ容疑で起訴され、中国軍機による史上初の領空侵犯が起きた。そして、ついに日本人学校の児童が襲われ死亡する痛ましい事件が発生するなど、日中関係は今、危機的な状況に陥っている。
だが、中国人の日本への流入は増加の一途をたどっている。
出入国在留管理庁の統計によれば、在留資格を持つ中国人は2023年12月末時点で、前年末から6万人増え82万人に達した。コロナ以前の2019年を超えて過去最高となったのだ。
日本社会でますます存在感を拡大する中国人。今回は教育現場における実態をレポートする。
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東大に在学している人の12%超が中国人
「東大が中国人の学校になっていますよ」と嘆くのは、ある東大関係者だ。
「近年、東京大学の学部と大学院に入学する中国人の留学生数が右肩上がりで伸び続けています。今年の5月の時点で、東大の学部生は約1万4000人、大学院生は約1万3500人で、合計約2万7500人が在籍しています。この中で、中国籍の留学生は3396人。つまり在学している人の12%超が中国人です。また、この数字とは別に日本の高校などを卒業し、留学生枠に入っていない中国人もいるので、実際はさらに多いでしょう」
東大が毎年発表する中国人留学生の数を比較すると、この10年で急激に増加していることがわかる。2014年5月には、1136人だったものが、2024年の5月時点で3396人と約3倍に。さらに、外国人留学生全体の中で、中国人の占める割合は、2014年5月には39.5%だったものが、2024年5月には、66.5%に達しているのだ。
「中国で高い人気と知名度を誇る早稲田大学も、東大とほぼ同数の約3300人の中国人留学生を抱えています。ただし、学部生と院生の合計は東大の倍近い4万8000人で、比率は7%ほど。東大では、学部や院のゼミになると、日本人がゼロで中国人ばかりというところも出てきている」(同前)
国際化の流れは否定しないが、バランスが重要
留学生全体の数が増加していることは、国際化していることの証しで、歓迎されるべき点もある。一方で、特定の国の学生が増え続けることに、問題はないのか。この現状に警鐘を鳴らすのが、東京大学名誉教授の山内昌之氏である。
「東京大学は国の最先端の研究機関であり、国の安全保障に関わる研究もおこなわれています。日本を取り巻く安全保障の問題から考えると、中国人が東大を席巻し、ここまで増えているというのはリスクを懸念せざるを得ません」
山内氏は、国際化の流れは否定しないが、バランスが重要だと提言する。
「私が在職中の10年ほど前から、理系の大学院で中国人の姿を多く見るようになりました。もちろん、『日本で学びたい』という人たちの自由は尊重すべきだと思います。一方で東大には国から多額のお金が入っていることを忘れてはいけません。たとえば、今年度は約800億円が投入されている。これは国民の税金が原資です。あえて厳しい言葉を使うなら、日本人のリソースを特定の国の学生に“奪われている”といっても過言ではないでしょう。中国という国が軍事大国であり、日本の脅威となっていることを踏まえると、制限なく受け入れ続けるのは国民にとって危ないことと言えます」
日本人が知らない中国人東大生の急増。その背景には何があるのか。
中国人が東大を目指す、3つの国内事情
北海道大学教授で、現代中国研究が専門の城山英巳氏は、「中国人のブランド志向が、日本のトップである東大を目指す理由だ」としつつ、3つの国内事情が背景にあると分析する。
「まず、中国では一流大学を卒業しても就職できない若者が国内に溢れかえっています。2つ目に習近平体制で強化された言論統制の影響です。自由に自分の好きな学問をすることが困難になっていることもある」
さらに、2020年から始まったゼロコロナ政策が決定的だった。
「他国がアフターコロナに移る中でも、市民の行動に強い制限をかけ、外出禁止などの負担を強いた。学生を中心に白い紙を掲げて政府に抗議する『白紙運動』も行われましたが、それすら政府によって弾圧されました。それまで中国なりの自由を謳歌してきた若者から、『中国が嫌になった』と聞くようになりました」(同前)
中学受験のため日本に移住する
では、実際に東大で学ぶ中国人はどのように考えているのだろうか。2年前に来日した東大生の李さん(仮名)に聞いた。
「両親は共産党員なのですが、私はその共産党の教育方針に子供のころから違和感を持っていました。習うのは『共産党が政権を取ったことで豊かになった』とか『人民解放軍は強い』とか、そういうことばかり。高校生の時に世界史の授業で、初めてイギリスや日本には『議会』があり、みんなで決めることができると知りました。中国人は共産党の作った嘘の中で、生活していると思います」
李さんは、来日後に日本語学校に通って日本語を習得。東大を受験して合格した。城山氏は、近年の東大などへ入学する若者の傾向についてこう解説する。
「かつては、中国の大学で日本語を学んでから、来日するケースが多かった。しかし、日本語を学んでいなくても、とりあえずは日本に渡って日本語を勉強して、大学を受験するという人が増えているようです。日本企業も、日本の大学を卒業した中国人人材を求めていますので、東大卒であれば引く手あまたです。さらに、この数年は日本で暮らす中国人の子弟が、名門中学や高校を受験して、東大生を目指す“受験の低年齢化”も起きています」
不動産売買では「東大の近く」「文京区」など細かい希望が
その低年齢化を肌で感じているのは、都内で中国人向けに不動産売買を仲介する会社Worth Landの杉原尋海氏だ。
「毎月約30件の問い合わせがあるうち9割ぐらいが中国本土の方です。日本で中学受験をするため、移住したいと話す方が急増しています。『子供の将来のために東大の近くのマンションを買いたい』とか『文京区に住みたい』と、細かく希望をおっしゃる。中国では、日本の中学や高校のお薦めランキングなどが、共有されているようです」
杉原氏によると、都内で中国人から人気が高い地区は、港区、中央区、千代田区、新宿区、文京区などだ。
「『欧米の物件も検討したが、治安もよく教育環境もよい日本を選んだ』という人が多い印象です」(同前)
中国人の子供向け学習塾も首都圏で増加中
その傾向を表すように、首都圏では中国人の子供向けの学習塾が、増加している。その一つを運営する胡さん(仮名)に話を聞いた。
「私の把握している限りでは今年だけで開成、桜蔭、豊島岡女子学園にそれぞれ20人ほどの中国人の子供が入学しました。筑波大附属駒場には4人ほど入っていますが、実際はもっと多いでしょう。日本に住む中国人同士は、SNSの『WeChat』で教育事情について情報共有しています。私が知っている、ある中学受験のグループは500人以上の参加者がいて、良い塾の情報を交換しています」
大手中学受験塾の関係者も、こう話す。
「入塾条件に国籍の入力を求めていないので、正確な数字は把握していません。ただ、都内で言えば湾岸エリアや東京の北側から埼玉の南側にかけてのエリアの校舎では、中国系の入塾が増えているのは事実です。中国系の子供は、先取り学習をしているため、みんな理科や算数は良くできる。ただ、国語や日本史が弱い子も多くて、そこで差がついています」
都内の名門中学や高校に質問状を送ったところ、「取材には応じられない」という回答ばかりだったが、渋谷教育学園渋谷中学校からは、次のような旨の答えがあった。
「入学している生徒の中には、中国に限らず外国にルーツを持つ生徒が複数名おり、その数は以前と比べて増えていると感じます。それらの生徒は日本人と同様、本校の教育理念に共感して入学されています。また本校の生徒の多くが難関大学に進学しています」
中国人の親の教育熱は日本人の親の比ではない
我が子の将来を想い、早くから教育に力を入れている。その姿は子供に中学受験をさせる日本人の親と変わらないように思える。しかし決定的に違うことが一つある。中国人ジャーナリストの周来友氏はこう語る。
「中国人の親の教育熱は日本人の親の比ではないです。中国人の母親は、子供が悪い成績をとったら怒鳴りつける。中国人からすると日本の親は子供にかけるエネルギーが全然足りないように見えます。中国の学校教育には小さいころから過酷な競争がある。子育てに『遊び』という要素は一切なく、勉強、勉強と、もうそれだけです」
中国国内では“内巻”と呼ばれる受験競争の激しさは社会問題にもなっている。
高校までを中国で過ごし、現在は都内の4年制大学に通う中国人の陳さん(仮名)は、母国の教育をこう振り返る。
「中学の先生は成績によって人を判断する成績主義者で、勉強が出来ない奴はダメな奴と思っているタイプでした。朝8時前から授業が始まって18時半ごろに学校が終わると、出された課題をこなすのに24時〜26時まで机に向かう毎日。部活動なんかもする暇はなく、勉強に集中させるためという名目で恋愛も禁止されていた。成績が悪いだけでいじめられることもありました」
2015年に来日し現在は、都内で働く劉さん(仮名)が言葉を継ぐ。
「中国には高考(中国の大学入試)を経て大学進学を目指す普通科高校と、卒業後にすぐに働き始める職業高校があります。『職業高校に進学した者は社会の底辺だ』という刷り込みがすごい。もし自分に子供ができたとしても決して中国では子育てしないでしょう」
「日本の受験は中国に比べて楽」
周氏は、在日中国人の教育熱の未来をこう予測する。
「中国の受験戦争に比べたら日本の受験なんて楽です。ただ、日本の中国人社会も中国と同じようになってきている。私も日本で子供を塾に通わせましたし、家庭教師もつけています。これから、中国本土と同様に競争が激化し猛勉強する家庭も出てくるでしょう」
前出の陳さんは、受験以上に、中国で厳しくなっている愛国主義に問題があると考えている。
「中学校では、ルールの一番初めに『(共産)党を愛する』ことを約束させられます。何かを愛することは自発的な行為のはずなのですが……。習近平政権になってネットの監視は強化され、特に2019年ごろから顕著になっています。メディアはフェイクニュースばかりを流しているのが現状。だから逆に私はジャーナリズムに関心を持つようになりましたが、中国で友人に伝えたところ、『捕まらないように』と忠告された。実家に帰省することはあっても、自由のない中国で生活していこうとは、まったく思っていません」
中国からやってくる者たちの中には、習近平政権に明確な「NO」を突きつける人々が数多(あまた)いるのだ。
次回は日本を舞台に、新たなる中国の未来を目指す人々を追う。
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習近平体制のもと強大化する中国とどのように対峙するべきか。日中関係の最前線に迫り、隣国とどう向き合うか考える連続キャンペーン「中国にNOと言おう」は、「週刊文春電子版」にて購読できる。